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【薬剤師国家試験 第103回 問213】不斉中心の有無と反応形式を見極めよう

 第103回の最後は、オメプラゾールに関する問題です。

 有機化学の考え方が必要になってきます。

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 はじめに、各工程で何が起こっているのか見ていきましょう。 

 オメプラゾールのすぐ近くに書かれている「及び鏡像異性体」という言葉が気になりますね。

 硫黄原子の右側から太い線(くさび形の線)が出ていることから分かるように、スルホキシドはキラルになり得ます。

 下に詳細を示しました。

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 非共有電子対が省略されていたわけですね。

 非共有電子対と酸素原子以外の2つの置換基(RとR')が異なる構造であれば、キラルになります。

 「キラルスルホキシド」と呼ばれています。

 ちなみに、混乱しやすいのですが、出題されている化合物のようにラセミ体であっても、キラルな化合物と言いますので、ご注意ください。*1

 それでは、Aの段階を見ていきましょう。

 オメプラゾールは胃の中で働く医薬品ですから、この反応は酸性条件下でしょう。

 はじめに、ベンゾイミダゾール環がプロトン化され、そのあとでピリジン環の窒素原子が、ベンゾイミダゾール環の炭素原子に求核攻撃するというメカニズムが妥当だと思います。

f:id:chemist-programming:20200221180551p:plain  次の段階Bは巻き矢印で表現し難いのですが、私は以下のように表現しました(プロトンが本当に関与しているかどうかは不明です)。

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 続くCの段階では、次の反応が起こるのでしょう(ここも本当にプロトンが関与しているかどうかは不明です)。

 反応の途中で水分子がとれているので、脱水反応であることは間違いないですね。*2

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 最後のDの段階では、硫黄原子が酵素システイン残基(–SH、メルカプト基)と反応しています。

 第104回の問209で登場した反応と類似の反応ですね。*3

 

 それでは、各設問を見ていきましょう。

 

【1】プロトン化されて反応が進行するので、pHが小さくなるほど反応が進行しますよね。

 この記述は誤りです。

 

【2】反応前の化合物は、キラルスルホキシドとスピロ中心をもっていました(下図の赤いアスタリスクの部分)。

 スピロ化合物も、周辺の置換基によってはキラルになり得ますよね(1つの炭素原子に異なる4つ置換基が結合していた場合)。

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 反応後は両者ともに消失していますので、この記述は正しいです。

 

【3】上記のとおり、脱水反応ですよね。

 この記述は×です。

 

【4】その通りです。

 この記述は◯です。

 

 以上のことから、正解は【2】と【4】でした。

 

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問題の出典: 厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000198920.html

*1:光学活性なキラルスルホキシドであったとしても、徐々にラセミ化してしまう化合物が多いです。その安定性の度合いは、置換基RとR'の種類によります。

*2:ベンゾイミダゾールは芳香族性化合物ですので反応性が低そうですが、胃の中が酸性条件であることと、分子内反応(エントロピー的に有利)であることが反応進行の要因になっていると考えられます。

*3:参考: 下記リンクの選択肢5【薬剤師国家試験 第104回 問209】プロドラッグが生体内でどのように変換されるのかを考えよう - ばけがくしゃの勉強ブログ