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薬剤師国家試験、有機化学、医薬品化学、etc.

NMRスペクトルの問題を解く秘訣【薬剤師国家試験 第105回 問107】

 NMRの問題は、シンプルでわかりやすいシグナルから解析していきましょう。

 今回の問題では「加水分解反応によって得られた化合物はに相当するシグナルが消えた」という追加の手掛かりがあるので、このことも頭に入れながら選択肢を絞っていきます。

 ちなみに、問題の表に「積分比」と書いてあるので、示されている値の2倍や3倍の水素原子をもつ可能性もあります。

 例えば選択肢にある1番の化合物のを見てみると計13H分であり、表の値を足したものと一致しているので、表の値のまま考えて問題ありません。

 

 それでは、スペクトルを見ていきましょう。

 まずは、もっともシンプルな一重線の(3H分)から特定していきます。

 3ー4ppmくらいの範囲にある3H分の一重線は基本的にメトキシ基のプロトンです。

 メトキシ基を1つだけもつのは1・2・3・4番の化合物であるため、5番の化合物が選択肢から除外されます。

 次にわかりやすいシグナルは、の組み合わせでしょう。

 1ー1.5付近の三重線3H分と、4ー4.5付近の四重線2H分は、エトキシ基(ーOCH2CH3)がもつプロトンに由来するシグナルと考えるのが妥当です。

 なお、このようなシグナルは酢酸エチルのNMRスペクトルにも見られます(酢酸エチルのプロトンNMRスペクトルは必ず覚えておきましょう)。

 したがって、エトキシ基をもたない1番の化合物が正解から除外され、残りは2・3・4番の化合物になりました。

 

 さて、のシグナルについは問題文にも手掛かりがありましたね。

 加水分解反応によりのシグナルが消失するため、4番の化合物のようなエトキシ基ではなく、2番と3番の化合物のようなエトキシ基であることがわかりますよね。

 加水分解反応により、エステル結合が切断されるわけです。

 仮に4番の化合物がもつようなエトキシ基を除去するのであれば、強いルイス酸と求核剤が共存する過酷な反応条件が必要です。

 したがって、4番の化合物が答えから除外できます。

 

 というわけで、残された化合物は2番と3番です。

 ここまで絞れたら化合物の構造から逆算して、対応するシグナルを考えた方がすぐに判断できることが多々あります。

 2番と3番の化合物の構造に着目し、両者で異なる構造を探してみましょう。

 その構造とは、2番の化合物がもつメチル基なので、この3H分のプロトンがあるかどうか確かめてみます。

 問題のスペクトルには、まだ帰属していない3H分のシグナルはありません。

 したがって、正解は3番です。

 

 なお、じつは2番の化合物だけ15個の水素原子をもっています。最初に話したとおり、化合物Aの水素原子の数は合わせて13個なので、このことからも2番が正解ではないことがわかります。

 

 以上のように、シンプルでわかりやすいシグナルから選択肢を絞っていき、選択肢が絞れてきたら化合物の構造を見比べてみると答えにたどりつきやすいと思います。

 この問題の答えに到達する手順は、じつは今回紹介したものだけではありません。

 どういう順番でシグナルと構造を対応させていくのかは自由です。

 注意して欲しいことは、1度自分で帰属したものが絶対に正しいと思い込まないことです。

 違和感を感じたら、いったん戻って帰属をやり直すようにしましょう。

 

 過去に出題されたNMRの問題の解説はこちらからどうぞ↓

【薬剤師国家試験 第102回 問108】NMRはシンプルなピークから解析していこう - 薬学部の勉強を応援するブログ

【薬剤師国家試験 第103回 問107】NMRはシンプルなピークから解析していこう - 薬学部の勉強を応援するブログ

【薬剤師国家試験 第104回 問106】NMRの問題を解くときは構造を省略せずに書こう - 薬学部の勉強を応援するブログ

 

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 問題の出典: 厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000198922.html

知っておくべき酵素による緻密な加水分解【薬剤師国家試験 第105回 問106】

 第105回薬剤師国家試験の問106では、加水分解酵素に関する問題が出題されました。

 まずは反応機構について詳しく見ていきましょう。

 アセチルコリンエステラーゼ(AChE)が引き起こす化学反応によってアセチルコリンエステル結合が切断されます。

 この反応に大きく関わるアミノ酸残基は、ヒスチジン(His)、グルタミン酸(Glu)、セリン(Ser)残基です。

 メカニズムの詳細を次に示しました。

 ①……グルタミン酸残基とヒスチジン残基が相互作用しています。

 巻き矢印を追って見ていきましょう。

 ヒスチジン残基中のイミダゾリル基は、塩基としてセリン残基に働きます。

 この影響によって、セリン残基のヒドロキシ基の求核性が高まり、アセチルコリンのカルボニル炭素に求核攻撃することが可能になります。

 

 ②……アセチルコリンのカルボニル炭素とセリン残基の酸素原子が結合し、セリン残基のプロトンヒスチジン残基に移りました。

 ここで、グルタミン酸残基の負電荷は、プロトン化されたイミダゾリル基の正電荷を安定化させています。

 つまり、イミダゾリル基がセリンからプロトンを奪いやすくしていたのです。

 さらに言い換えると、グルタミン酸残基とイミダゾリル基の間に働く相互作用は、イミダゾリル基の塩基性を高める効果があるわけです。

 

 ③……エステル結合が切断される過程で、ヒスチジン残基に残っていたプロトンは、コリンの酸素原子に移ります。

 この後、生体内の水分子が求核攻撃し、エステル化(アセチル化)されたセリン残基が速やかに加水分解されます(ミリ秒程度)。

 その結果、アセチル基由来の酢酸が生じるとともに、セリン残基は元どおり(R-OH)になります。 

 このような過程を経て、アセチルコリンエステル結合が切断され、酢酸とコリンが生じるわけです。

 それでは、各設問を見ていきましょう。

 

【1】◯

 ②で説明したとおり、グルタミン酸残基の負電荷によって、イミダゾリル基の塩基性が高められています。

 そのため、この選択肢の記述は正しいです。

 

【2】×

 ①で示したように、グルタミン酸残基と相互作用しているイミダゾリル基が塩基として働き、セリン残基のヒドロキシ基の求核性を高めています。 

 したがって、この選択肢の記述は間違いです。

 

【3】×

 酵素と基質の相互作用には、いくつかのパターンがあります。

 ヒドロキシ基やアミノ基などの間で生じる「水素結合」や、カルボキシラートイオンとアンモニウムイオンとの間で生じる「イオン結合(塩橋)」の他、フェニル基のような疎水性の置換基と酵素の疎水性ポケットとの相互作用が知られています。

 設問ではイオン結合があるかどうか問われています。

 アセチルコリンが正電荷をもつため、イオン結合が形成されるためにはトリプトファン残基が負電荷をもっていないと成り立ちません。

 下に示したように、トリプトファン残基は負電荷を帯びていないため、イオン結合は形成しません。

 よって、【3】の記述は間違いです。

 

【4】×

 化合物Aは、可逆的コリンエステラーゼ阻害薬であるネオスチグミン(臭化物)です。

 重症筋無力症などに用いられます。

 セリン残基がカルボニル炭素に求核攻撃し、AChEはアミド化(カルバモイル化とも呼ばれる)されます。

 アミド化されたAChEはゆっくり加水分解され、酵素活性は時間経過とともに回復します。

 このアミド化は可逆的であるため、【4】の記述は間違いです。

【5】◯

 化合物Bは、非可逆的コリンエステラーゼ阻害薬であるサリンです。

 セリン残基がサリンのリン原子を攻撃し、フッ素原子がフッ化物イオンとして脱離します。

 リン酸化されたAChEが加水分解されるには非常に長い時間がかかり、新たな酵素が産生されるまで酵素活性が回復しません。

 AChEは非可逆的(不可逆的)に阻害されるため、【5】の記述は正しいです。 

 というわけで、正しい記述は【1】と【5】でした。

 【4】と【5】を解くためには、薬理学の知識も必要だったと思います。

 最後に、この辺りのことをもう少し詳しくお話しておきましょう。

 可逆的コリンエステラーゼ阻害薬はネオスチグミンの他、認知症治療薬の「リバスチグミン」も同様で、やはり『R2N―CO―O―R』の構造をもつカルバメートです。

 また、非可逆的コリンエステラーゼ阻害薬はサリンの他にも殺虫剤の成分「パラチオン」があります(やはりリン原子をもち、脱離基はp-ニトロフェノキシ基です)。

 サリンやパラチオンには「プラリドキシム(pralidoxime, PAM)」が解毒薬として働きます。

 プラリドキシムのヒドロキシ基が、リン酸化されたAChEのリン原子を攻撃し、セリン残基のヒドロキシ基が復活します。

 コリンエステラーゼ阻害薬の構造を見て、『R2N―CO―O―R』の構造をもつカルバメートなのか、脱離基が直接結合しているリン原子をもつ化合物なのかで、可逆的なのか非可逆的(不可逆的)なのかを判断できるようにしておきましょう。

 

 なお、第103回の試験では、タンパク質の加水分解酵素であるキモトリプシンの問題が出題されていますので、こちらの記事も是非どうぞ↓

【薬剤師国家試験 第103回 問105】酵素と基質の相互作用について考えよう - 薬学部の勉強を応援するブログ

 

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一酸化窒素(NO)は何からできるのか?【薬剤師国家試験 第105回 問105】

 今回は、一酸化窒素の生合成に関する問題です。

 1つずつ設問を見ていきましょう。

 

【1】×

 一酸化窒素合成酵素(nitric oxide synthase, NOS)が働き、L-アルギニンと酸素分子(O2)から、L-シトルリンと一酸化窒素(NO)が生成します(この際、NADPHをはじめとする、さまざまな補酵素が働きます)。

 L-グルタミンではなく「L-アルギニン」なので【1】の記述は×です。

 NOの生合成について詳細を思い出せない場合は、とりあえずL-グルタミンの構造を書いてみましょう。

 少々難しい話かもしれませんが、L-グルタミンが化合物B(L-シトルリン)に変換されてNOが生成することを想定すると、「化合物Bの「ーCONH2」の構造は何に由来するのか……」「NOの窒素原子はどこからきたのだろう……」など、違和感を覚えるのではないでしょうか?

 

【2】×

 常磁性は不対電子を1つ以上もつ原子・分子・イオンが示す、磁場の中におくと磁場に引きつけられる性質です。

 NOのルイス構造式を書いてみると、電子が1つ余ることがわかります。*1

 これが不対電子ですよね。

 したがって、【2】の記述は×です。

 ちなみに、不対電子をもっていない場合は、磁場によって弱く反発される「反磁性」の性質をもちます。*2

 

【3】×

 NO中の窒素原子の酸化数について考える問題です。

 化合物中の酸素原子の酸化数は−2とされているので、この値に応じて決まります。

 NOはイオンではないので、原子の酸化数の総和が0であることから、NO中の窒素原子の酸化数は+2です。

 したがって、【3】の記述は×です。

 なお、例外的に過酸化水素(H2O2)は酸素原子の酸化数が-1なので、ご注意ください。

 

【4】○

 上に示したとおり、L-アルギニンが酸素分子(O2)と反応することによってNOが生成しています。

 そのため、【4】の記述は○です。

 

【5】×

 化合物BはL-オルニチンではなく「L-シトルリン」なので、【5】の記述は×です。

 NOの生合成について詳細を思い出せない場合は、生物系の範囲である「尿素回路(オルニチンサイクル)」を思い出してみましょう。

 このサイクルにおける反応の1つである「L-オルニチン → L-シトルリン」のどちらかの構造を正確に覚えていれば、【5】の記述が間違いだと分かります。

 

 この問 105は、純粋な化学の問題が【2】と【3】だけであり、化学の分野外の詳しい知識が求められる出題だったと思います。

 正直、一酸化窒素の生合成について思い出せないと難しい問題でした。

 【1】と【5】はもちろん、正解である【4】も、薬学部では有名な「シトクロムP450」による酸化反応が酸素分子(O2)を必要とするので、今回のケースも同様であると予想できるかもしれませんが、断定するは困難でしょう。

 

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 問題の出典: 厚生労働省ホームページ

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000198922.html

*1:ルイス構造式の書き方についてはコチラ↓

chemist-programming.hatenablog.jp

*2:常磁性反磁性については『コットン ウィルキンソン ガウス 基礎無機化学 [原著第3版]』(F.A.コットン、G.ウィルキンソン、P.L.ガウス共著、中原勝儼訳、培風館、1998)の説明を参考にしました。

芳香族求電子置換反応の原則【薬剤師国家試験 第105回 問104】

 第105回薬剤師国家試験の問104「芳香族求電子置換反応」に関する問題です。

 化合物Aの反応では、どのようなことが起こっているのでしょうか?

 今回は設問に答えながら解説していきます。

 

【1】×

 硝酸と硫酸の組み合わせは「ニトロ化」の条件ですよね。

 よく用いられるのは濃硝酸と濃硫酸の混合物です。

 このような強い酸性条件だと硝酸がプロトン化されて「ニトロニウムイオン」が生成します。

 求電子剤はSO3ではなく、このニトロニウムイオンであるため、選択肢【1】の記述は間違いです。

 ちなみに、SO3はスルホン化の条件で発生する求電子剤です。

 発生したニトロニウムイオンはベンゼン環と反応します。

 芳香族化合物にニトロ基を導入する反応であり、総称としては「芳香族求電子置換反応」と呼ばれています。

 ちなみに、芳香族求置換反応は、芳香族化合物と求核剤との反応です。

 反応剤が、芳香族化合物に対して求電子的に反応するのか求核的に反応するのかで、これらの反応名が決まります。

 芳香族化合物ではなく、反応剤のほうの視点に立って反応の名前が決まるのでご注意ください。

 

【2】× 【3】×

 設問の【2】と【3】を同時に解説します。

 下に化合物Aの共鳴構造式を示しました。

 窒素原子の非共有電子対が、ベンゼン環に流れ込んでいますよね。

 この共鳴効果により、の部分は電子供与性を示します。

 これに加えての部分は、次のような共鳴構造式も書けます。

 このカルボニル基との共役により、窒素原子の非共有電子対のベンゼン環への流れ込みは弱まりますが、ベンゼン環に対する電子供与性が打ち消されるほどではありません。
 そのため、の部分は電子供与基としてはたらいています。

 電子求引性を示さないため、選択肢【2】の記述は間違いです。

 続いて、選択肢【3】の記述を見てましょう。

 「電子供与性」の箇所はあっていますが、上述のとおりの部分のはたらきは「共鳴効果」であり「誘起効果」ではありません。

 そのため、選択肢【3】の記述も間違いです。

 なお、誘起効果は、原子の電気陰性度に基づく、σ結合の極性の差により電子が供与されたり吸引されたりする効果です。

 よりシンプルな構造であるアニリンの例を下に示しました。

 

 電気陰性度は炭素原子よりも窒素原子のほうが大きいので、窒素原子側にσ結合を通じて電子が求引されます。

 ただし、窒素原子や酸素原子の場合、一般的に誘起効果よりも共鳴効果のほうがまさります。

 今回の化合物Aも同様です。

 

【4】◯

 上に示した化合物Aの共鳴構造式を見てみると、オルト位とパラ位の電子密度が高められていることがわかります。

 そのため、オルト位とパラ位は、メタ位よりも求電子剤との反応性が高いです。

 この反応の中間体の共鳴構造式を書いてみても、同様にオルト位とパラ位の反応性が高いことがわかります。

(1)がオルト位、(2)がメタ位、(3)がパラ位に反応した場合の中間体および共鳴構造式です。

 (1)と(3)の極限構造式ABは、さらに次のような共鳴構造式が書けます。

 より多くの極限構造式*1が書けるため、これらの中間体はメタ位のものより安定なのです。

 オルト位とパラ位の選択性を議論するためには、このような電子効果に加えて、立体障害の影響も考えなくてはなりません。

 アの部分は比較的大きな置換基であり、求電子剤は立体障害によりオルト位よりもパラ位に優先して反応します。

 したがって、選択肢【4】の記述は正しいです。

 

【5】◯

 の部分は電子供与性を示すため、ベンゼン環の電子が豊富になります。

 そのため、求電子剤との反応性が上がり、芳香族求電子置換反応であるニトロ化は速くなります。

 その一方で、ベンゼンは電子供与性基をもたないため、ニトロ化の反応速度は化合物Aよりも遅くなります。

 したがって、選択肢【5】の記述は正しいです。

 

 というわけで、正解は【4】と【5】でした。

 

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 問題の出典: 厚生労働省ホームページ

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*1:「極限構造式」という用語についてはコチラの記事をご覧ください↓

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ポテンシャルエネルギー図に学ぶ、求核置換反応【薬剤師国家試験 第105回 問103】

 今回は、ハロゲン化アルキルを用いた求核置換反応について、ポテンシャルエネルギー図を見ながら考える問題です。

 図の横軸は反応の進行を、縦軸は自由エネルギーの変化を示しています。

 まずは、求核置換反応の反応形式を見ていきましょう。

 このような反応は、大きく2つのタイプに分類されます。

 その2つとは、求核剤の攻撃と同時に脱離基が抜けていく「SN2反応」と、脱離基が脱離した後で求核剤が攻撃する「SN1反応」です。

 まずは、SN2反応について説明します。

 模式的な反応式で表すと、次のようになります。

 なお、円の図形は、水素原子や種々の置換基を示しています。

 

 

 SN2反応の「2」は、この二分子の濃度が反応速度に影響することを意味しています。

 なお、ハロゲン化アルキルを用いたSN2反応の反応速度は、下記の式で表されます(kは反応速度定数)。

 

反応速度 = k [ハロゲン化アルキル] [求核剤]

 

 続いて、SN1反応について説明します。

 先ほどと同様に模式的な反応式で表すと、次のようになります。

 

 

 まず、脱離基となる置換基(ブロモ基)が脱離し、不安定なカルボカチオン中間体が生じます。

 その後で、その中間体に求核剤が攻撃します。

 SN1反応は、最初の脱離基となる置換基(ブロモ基)が脱離する段階が反応速度に影響します。

 いわゆる律速段階ですね。

 SN1反応の「1」は、この一分子(ハロゲン化アルキル)のみが律速段階に関与していることを意味しています。

 ハロゲン化アルキルを用いたSN1反応の反応速度は、下記の式で表されます(kは反応速度定数)。

 

反応速度 = k [ハロゲン化アルキル] 

 

 この式が示すように、求核剤の濃度は反応速度に関与しません。

 ハロゲン化物イオンが脱離さえすれば、生じた不安定なカルボカチオン中間体が、すぐに求核剤と反応してくれるわけです。

 

 また、SN2反応とSN1反応の反応式を見比べてみると、SN2反応は1段階、SN1反応は2段階の反応であることが分かると思います。

 このこともポイントの一つです。

 

 さて、問題に示されているポテンシャルエネルギー図を確認していきましょう。

 どちらがSN2反応で、どちらがSN1反応の図なのでしょうか?

 まずは図Aを見てみましょう。

 図Aの反応には、極大点aが存在します。

 この極大点aは、ある反応の1段階において最大のエネルギー値をもった「遷移状態」です。

 図Aにおいて、遷移状態はこの1つだけであり、こちらは1段階の反応であることが分かります。

 1段階の反応はSN2反応でしたよね。

 というわけで、図Aの反応はSN2反応です。

 一方、図Bの反応は、1つ目の遷移状態を経由した後で、安定した極小に達しています(極少点b)。

 極小点は、中間体が生成していることを示しています。

 SN1反応では、カルボカチオン中間体を生じるという話でした。

 したがって、図Bの反応はSN1反応です。

 ポテンシャルエネルギー図の詳細が分かったところで、選択肢の記述を見ていきましょう。

 

【1】×

 反応物がもつ自由エネルギーと、生成物がもつ自由エネルギーに着目しましょう。

 生成物のほうが低い自由エネルギーをもつ場合は、発エルゴン反応です。

 逆に、生成物のほうが高い自由エネルギーをもつ場合は、吸エルゴン反応です。

 下図の左側が発エルゴン反応、右側が吸エルゴン反応です。

 図Aの反応は発エルゴン反応なので、選択肢の記述は間違いです。

 

 

 

【2】×

 二分子反応とは、2つの反応物が1段階で相互作用するメカニズムの反応のことをいいます。

 ちなみに、今回の反応は求核置換反応なので、とくに『二分子求核置換反応(biomolecular nucleophilic substitution)』と言います。

 じつは、これをSN2反応と呼んでいます(substitution(置換)、nucleophilic(求核的)、2 → bimoecular(二分子))。

 Bの反応はSN1反応であり、二分子反応ではありません。

 したがって、この選択肢の記述は間違いです。

 SN1反応は、ただ一つの分子(今回の問題ではハロゲン化アルキル)が反応物となる反応が律速段階である『一分子求核置換反応(unimolecular nucleophilic substitution)』のことです。

 

【3】○

 SN2反応では、ハロゲン化アルキルの置換基の嵩高さの影響を受けて、求核剤が接近しづらくなります。

 その様子を下図に示しました。

 立体障害の影響により遷移状態の自由エネルギーが高くなり、出発物質との自由エネルギーの差である「活性化エネルギー(エネルギーI)」も高くなります。

 これは、SN2反応が進行するために超えなくてはならないエネルギーの障壁が高くなることを意味します。

 以上のことから、選択肢3の記述は正しいです。

 

 

【4】×

 選択肢2の解説で触れたとおり、SN1反応の律速段階は脱離基となる置換基(ブロモ基)が脱離する段階です。

 図Bで考えると、スタートからbに至るまでの段階が律速段階です。

 そのため、この選択肢の記述は間違いです。

 bからcの段階は、不安定なカルボカチオンに求核剤が反応するだけなので、最初の段階と比べるとエネルギーを必要としません。

 下図のエネルギーIIとエネルギーIIIを比較してみましょう。

 

 

【5】×

 2-ブロモブタンの構造を書き出してみると、確かに不斉炭素原子をもっており、キラルな化合物であることが分かります。

 この一方のエナンチオマー、例えばR体が反応したとすると、Aの反応(SN2反応)において、極大点aでは下図のような遷移状態aをとり、生成物の炭素原子の立体配置は反転します(Walden反転)。

 1段階の反応の間で、求核剤が脱離基とは反対側から炭素原子に接近し、置換するためです。

 ラセミ体は生成しないため、この選択肢の記述は間違いです。

 

 

 なお、選択肢の「ラセミ混合物」という用語は、「ラセミ体」と同じ意味で用いられています。

 前回の記事(第105回 問102)でも説明しましたが、結晶化しているラセミ体について考える際には、「ラセミ混合物」という用語は特別な意味をもちます。

 よく一緒に用いられる「ラセミ化合物」とともに、その意味を載せておきます。

 各々のエナンチオマーをR体、S体として説明します。

 

 ラセミ混合物……R体はR体だけで、S体はS体だけで個々に結晶をつくる

 ラセミ化合物……単位格子中にR体とS体が1対1の割合で存在する

 

 今回の問題のように、結晶化している化合物を指しているのかどうか不明なさいには、混乱を避けるために、私は「ラセミ体」という用語を使うようにしています。

 

 さて、SN1反応の場合は、ハロゲン化アルキルの立体配置はどうなるでしょうか?

 (R)-2-ブロモブタンを反応物として、仮にSN1反応が起こった場合を想定しましょう。

 SN1反応は2段階の反応であり、下図のように中間体として平面構造をもつカルボンカチオンが生じます。

 このカルボカチオン中間体の両側から求核剤が反応するため、ラセミ体が生成します。

 

 

 

 以上のことから、この問題の正解は【3】でした。

 SN1反応とSN2反応の特徴を、ポテンシャルエネルギー図とともに、復習しておきましょう。

 

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合成問題の攻略法とは【薬剤師国家試験 第105回 問102】

 

 今回は、合成経路の問題を解いていきましょう。

 アルケンAへの付加反応が2通り書かれています。

 選択肢を見てみると、反応の形式や生成物の立体化学について考える必要があることが分かります。

 こういった合成経路が示された問題を解くさいには、一つ一つの段階で何が起こって何が生成するのかを考えていくことが、ミスなく正解にたどり着けるコツです。

 丸暗記に頼らず、反応機構をしっかりと書けるようにしておきましょう。

 まずは問題の上側の合成経路について解説します。

 アルケンAから中間体Bを経由し、アルコールCができる反応です。

 アルケンをBH3(ボラン)と反応させてから、塩基性条件下でH2O2過酸化水素)と反応させる一連の流れは、ヒドロホウ素化(ハイドロボレーション)からの酸化反応ですよね。

 アルケンからアルコールを合成する方法で、いわゆる逆Markovnikov型付加の反応です。

 下に、BH3を使う段階の反応機構を示しました。

 

 この段階には、重要な点が2つあります。

 まず1つ目のポイントは、アルケンAとBH3の反応は、一段階のシン付加で進行するということです。

 遷移状態Ⅰの図は平面的に書いてありますが、実際はボランが紙面の手前側から反応するパターンと、向こう側から反応するパターンの2種類があります。

 その割合は1:1です。

 そのようにして反応が進行した結果、生成するBは、B-1B-2の2種類の立体異性体が1:1の比率で混ざり合っているものになります。

 B-1B-2は、互いにエナンチオマー(鏡像異性体)の関係にあるため、特別な手法を用いない限り分離することができません。

 もう1つのポイントは、この反応の位置選択性についてです。

 なぜ逆Markovnikov型付加するのでしょうか?

 要因の一つとして、立体障害の影響があります。

 遷移状態IIのように、アルケンAのメチル基と、BH3のホウ素原子側が近づいてしまうと、立体的に混み合ってしまいます。

 そのため、遷移状態IIではなく、遷移状態Iが優先され、位置選択的な反応が起こるというわけです。

 なお、ヒドロホウ素化は、同様の反応が最大2回(計3回)、起こり得ます。

 中間体B-1B-2を見れば分かるように、生成物には水素原子が結合したホウ素原子の構造(B–H)が残っているため、さらにヒドロホウ素化が起こる可能性があるのです。

 これは、必ず計3回起こるわけではありません。

 立体的に空いているアルケンであれば、最大で計3回起こるというだけで、実際に何回起こるのかはアルケンの嵩高さによります。

 例えば、次に示すアルケンは立体的に混み合っていて、ヒドロホウ素化が1回や2回で止まることが分かっています。

 次に、H2O2を使う段階について解説します。

 下図には、一方のエナンチオマーであるB-1を用いて反応機構の詳細を記載しました。

 アルケンAを反応物とした場合、計何回ヒドロホウ素化が起こっているのかは不明なので、不明な部分の構造は省略して書いてあります(B-1')。

 塩基性条件下、脱プロトン化された過酸化水素B-1'と反応すると、下記のような転位反応が起こります。

 その後、塩基性条件下での加水分解が起こり、アルコールC-1が生成します。

 B-2B-1のエナンチオマーなので、もちろん同様のメカニズムで、反応が進行します。

 下図の最下段に示したように、B-2からは対応する立体配置をもつC-2が生成します。

 

 

 生成物Cは、これらC-1C-2が1:1の比率で混じり合っているラセミ体です。

 この1:1という比率は、上で述べたように、BH3がアルケンAの手前側と向こう側から1:1の割合で接近したことに起因しています。

 

 続いて、問題の下側に書いてある合成経路を見てみましょう。

 酸性水溶液中で加熱する条件ですね。

 硫酸は強い酸であるため、まずはプロトンが反応することを考えましょう。

 プロトンは、アルケンAの二重結合に付加します。

 二重結合を形成している炭素原子のどちらに水素原子が結合するのか、ここでも位置選択性が問われています。

 カルボカチオンが生じるため、このカルボカチオン中間体が安定化するほうが優先的に生成します。

 第三級と第二級のカルボカチオンなので、安定性が高いのは第三級のほうです。

 つまり、この反応ではMarkovnikov型付加が起こっています。

 

 

 この中間体が水分子と反応すると、第三級アルコールDが生成します。

 それでは、以上のことを踏まえて選択肢を見ていきましょう。

 

【1】×

 上で述べたように、ヒドロホウ素化はsyn付加です。

 

【2】○

 過酸化水素水酸化物イオンに還元されています。

 (過酸化水素の酸素の酸化数= −1 → 水酸化物イオンの酸素の酸化数= −2)

 逆に、アルケンAは酸化されたことになるため、酸化反応です。

 

【3】○

 上で述べたようにアルコールCは、C-1C-2が1:1の割合で混ざっているラセミ体です。

 選択肢の「ラセミ混合物」という用語は「ラセミ体」と同じ意味で用いられています。

 ちなみに、結晶化しているラセミ体について考えるさいには、「ラセミ混合物」という用語は特別な意味をもちます。

 よく一緒に用いられる「ラセミ化合物」とともに、その意味を載せておきます。

 各々のエナンチオマーをR体、S体として説明します。

 

 ラセミ混合物……R体はR体だけで、S体はS体だけで個々に結晶をつくる

 ラセミ化合物……単位格子中にR体とS体が1対1の割合で存在する

 

 今回の問題のように、結晶化している化合物を指しているのかどうか不明なさいには、混乱を避けるために、私は「ラセミ体」という用語を使うようにしています。

 

【4】×

 アルコールCDがもつ水酸基(もしくはメチル基)は、結合している炭素原子が異なります。

 このように、分子式は同じだけど置換基の位置が異なっていたり、他にも骨格や官能基が異なっていたりする異性体は、「構造異性体」に分類されるためジアステレオマーではありません。

 ジアステレオマーやエナンチオマーは、分子式が同じだけど、分子内の原子の空間的な配列だけが異なる「立体異性体」に分類されます。

 

【5】×

 アルコールDはメソ体ではありません。

 メソ体とは、不斉炭素原子などのキラル中心(PやSiも含む)をもつにもかかわらず、分子内に対称面があるため、アキラルな化合物のことです。

 有名な例だと、次に示す右端の酒石酸がメソ体ですね。

 2つの不斉炭素原子をもつにもかかわらず、分子内に対称面をもつため、アキラルな化合物になるのです。

 アルコールDは、メソ体と同様にアキラルな化合物であることは間違いないのですが、そもそも不斉炭素原子がないのでメソ体ではありません。

 不斉炭素原子がないことを見抜き、すぐにこの記述が間違いだと気づけるようにしましょう。

 

 というわけで、正解は【2】と【3】でした。

 合成経路の問題は、時間が掛かってしまうかもしれませんが、できるだけ詳細まで反応機構や化合物の立体配置を書き出して考えたほうが正解につながります。

 選択肢を読んで必要なところだけを考えて解くと、思わぬ見落としによって、失点してしまうかもしれません。

 しっかりと書き出して、何が起こっているのか、その結果、何ができるのかを詳細まで明らかにしましょう。

 

 他にも、過去にヒドロホウ素化を扱った問題が出題されているので、ぜひ解いてみてくださいね。

chemist-programming.hatenablog.jp

 

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 問題の出典: 厚生労働省ホームページ

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000198922.html

 

キラルなのかアキラルなのか間違えない方法【薬剤師国家試験 第105回 問9】

 これら5つの立体異性体が、キラルなのかアキラルなのかを判定する必要があります。

 次の図に示したように、分子内の対称面を見つけて判断するのが一般的な解き方かと思います。

 赤色もしくは青色で示した直線が対称面を示しています。

 

 このように、立体異性体13、そして5は対称面をもっています。

 立体異性体4については下の図に示しました。

 この4だけは対称面をもっておらず、鏡に映した関係である鏡像異性体4'が存在します。

 これら2つの立体異性体は重なり合わないため、4はキラルな化合物というわけです。

 したがって、この問題の正解は4番です。

 

 

 以上のように、対称面を見つけると、簡単に問題を解くことができます。

 ただし、この問題で与えられた構造は、シクロヘキサン環の各炭素に置換基が一つずつ付いている、とても分かりやすい構造だったため、容易に対称面を見つけられたと言えるでしょう。

 環状の化合物が平面的に描かれている場合、対称面があるのか、ないのか判断しやすいですよね。

 

 例えば他にも、次のような5員環の化合物の場合も、対称面を見つけるのは簡単です。

 cis-1,2-ジメチルシクロペンタン(上の化合物)は対称面をもつため、アキラルな化合物ですが、trans-1,2-ジメチルシクロペンタン(下の化合物)は対称面をもたないため、キラルな化合物です。

 ところが、次のような鎖状の化合物について考えた場合、対称面の有無を判断することは難しくなってきます。

 ちなみに、例に挙げた化合物は「酒石酸」です(正確には酒石酸の立体異性体の一つ)。

 

 

 というわけで、鎖状の化合物や、さらに難解な構造をもつ化合物(分子不斉など)が出題されたときに備えて、次のような方法で解く練習をしておくことをお勧めします。

 その方法とは、先ほどから立体異性体4やtrans-1,2-ジメチルシクロペンタンで行なっているように、まずは鏡に映した構造を書き出し、それを元々の構造と比較するという作業を、アキラルな化合物に対しても行なうというものです。

 つまり、問題の選択肢として与えられている全ての構造に、この作業を行なうわけです。

 このさい、両者が重なり合ったら、同じ化合物なのでアキラルです。

 重なり合わなかったら、異なる化合物なのでキラルというわけです。

 この流れで判定していきます。

 

 さて、先ほどの酒石酸を例にして、この作業をしっかりと練習しておきましょう。

 与えられた酒石酸の構造をAとして、次の図を用いて説明します。

 

 

 はじめに、鏡に映した構造を書きます(AをもとにBを書く)。

 続いて、両者を比較しましょう(ABを比較)。

 そのままの向きだと比較しづらい場合は、鏡に映した構造をひっくり返して元々の構造と向きをそろえてから比較しましょう。

 このケースでは、両者は重なり合うため、同じ化合物ですよね(A = B)。

 というわけで、鏡像異性体は存在せず、酒石酸Aはアキラルな化合物でした。

 

 それでは、以上のことを踏まえて国家試験の問題に今一度取り組んでみましょう。

 各選択肢の立体異性体について、鏡に映した構造を書き出して比較してみます。

 まずは立体異性体12について、下に示しました。

 

 

 

 これらは非常に分かりやすいですよね。

 鏡に映した構造は、元々の構造と全く同じものなのでアキラルな化合物です。

 続いて、異性体3を見てみましょう。
 鏡に映し出した構造は、そのままの向きだと分かりづらいので、酒石酸のときに行なったように、向きを変えて比較しましょう。
 これも同様にアキラルな化合物であることが分かります。
 
 
 
 異性体4は少々複雑です。
 鏡に映した構造の向きを変えて、なるべく比較しやすくなるようにしましょう。
 両者の構造は重なり合わないため、異性体4はキラルな化合物です。
 
 
 最後に、異性体5を見てみましょう。
 向きを変えて比較すると、アキラルな化合物であることが分かりますよね。
 
 
 
 というわけで、改めて正解は4番の選択肢でした。

 キラルなのかアキラルなのかを問われたら、鏡に映した構造を書いてみて、元々の構造と比較してみましょう。

 繰り返しになりますが、重なり合うならアキラル、重なり合わないならキラルな化合物です。

 

 最初に述べた対称面を探す方法に頼って慣れ切ってしまうと、鎖状タイプの構造が出題されたときに面食らってしまうので、日頃から書き出す方法で練習していきましょう。

 慣れてくると、易しい構造であれば書き出さずとも頭の中でイメージできるようになります。

 対称面を探す方法は、書き出す方法をしっかりできるようになった上で、試験中の解答時間を短縮するために使うようにしたほうがいいと思います。

 

 これに関連して、不斉炭素原子のR/Sを決定する方法を、不斉炭素原子の基本からじっくり解説した記事を過去に投稿しています。

 リンクを貼っておきますので、復習に役立てていただければと思います。

chemist-programming.hatenablog.jp

 

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 問題の出典: 厚生労働省ホームページ

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000198922.html