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【薬剤師国家試験 第102回 問209】グルタチオンはメルカプト基が反応する

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 アセトアミノフェンAが反応して生じる付加体を、選択肢の中から選んでいきましょう。

 グルタチオンの大きな特徴は、メルカプト基(–SH)が反応することです。

 この官能基は、代謝Aのどの位置に反応するのでしょうか?

 前問では、チオール(-SHをもつ化合物のこと)がエノン構造に1,4-付加(Michael付加)することを述べました。

 代謝Aはエノン構造をもつので、グルタチオンがAに1,4-付加する可能性が充分にあります。

 しかしながら、選択肢の中には、そのような結合パターンをもつ(カルボニル酸素から数えて4番目の位置(カルボニル基のβ位)に硫黄原子Sが結合している)化合物はありません。

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 代謝Aはエノン構造をもってはいますが、エノンと同様の性質は示さない……ということなのでしょう。

  代謝Aのエノン構造は、イミン部位およびオレフィンとつながって(共役して)いるので、性質が異なるということだと思います。

 有機化合物において、周辺の構造が少し変化すると官能基の反応性も変わる……というのは、よくあることです。

  前の問題のように、チオールがエノン構造に1,4-付加することが分かっているだけでは、正解に辿り着くことが困難です。*1

 2つの反応物から考えて答えが出せないようであれば、選択肢の構造(=生成物の構造)から、考えていきましょう。

 メルカプト基(–SH)が反応しているのは、4番と5番の化合物だけですね。

 まずは、4番の化合物の構造をよく見てみましょう。

 エノンの酸素原子が窒素原子に変わった下記の構造(Aの桃色の線で囲った部分)に1,4-付加した……と考えると、分かりやすいと思います。

 細かいところは異なるかもしれませんが、反応機構の流れも示していますので、確認していきましょう。

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 まず、メルカプト基が付加した後、プロトンが移動します(BC)。

 続く互変異性化でケト型(Cの緑色の線で囲った部分)からエノール型に変換されれば、ベンゼン環が生じます(C4)。

 芳香族化合物は安定なので、普通は不安定なエノール型に落ち着くわけですね。

 一方、構造上部にある窒素原子の周辺は、より安定な、アミノ基がアセチル化された形(の赤色の線で囲った部分)に互変異性化します(C4)。

 この変換は、エノール型からケト型に変換される様子と似ています(構造的には、炭素原子が窒素原子に置き換わった形になります)。 

 以上の変換により、4番の化合物に変換されました。

 答えに辿り着くことができましたが、一応、5番の化合物が生成する可能性も考えてみましょう。

 5番の化合物が生成するのであれば、メルカプト基がエノン構造に対して1,2-付加したことになります。

 この化合物Aに関しては周辺の構造の影響によって、1,2-付加が優先するのかもしれません。

 こちらの反応機構も書いてみましょう。

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 グルタチオンがAに付加すると、メルカプト基のプロトンが移動して、DからEが生じるでしょう。

 これ以上は反応機構を書き進めることができず、5番の化合物には至りませんよね。

 したがって、正解はやはり4番の選択肢です。

 

 代謝物Aとグルタチオンの反応は、生体内で起こる反応です。

なかなか反応形式を見破るのが難しいところですが、反応機構を書くことに慣れておくと、得点に結びつくかもしれません。

 

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問題の出典: 厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000168886.html