前回の記事(不斉炭素原子について)↓
chemist-programming.hatenablog.jp
前回は、不斉炭素原子について基本的な事柄を説明しました。
今回は下記の乳酸を例にして、各々のエナンチオマーがRなのかSなのか、その帰属について詳しく説明していきます。
それぞれのエナンチオマーの名前にRやSと表示することによって、いちいち3次元的な構造を描かずとも、どちらのエナンチオマーのことを意味しているのか、その表示だけで世界中の人たちが分かるようになります。
それでは、左側に示した乳酸から見ていきましょう。
あるエナンチオマー(鏡像異性体)がR配置をもつのかS配置をもつのか決める場合、まずは、不斉炭素原子に直接結合している4つの原子の優先順位を決定します。
下に示した、赤色で囲ってある酸素、炭素、炭素、水素です。
原子番号が大きいほど、優先順位が高くなります。
原子番号の順番はH→C→Oなので、優先順位は酸素が1番で、水素が4番ですね。
というわけで、水酸基が1番で、水素原子が4番になります。
残り2つの炭素原子は同じ元素ですので、それらの炭素原子に直接結合している原子をさらに比較していきます。
下に示したように、一方は水素が3つ(H, H, H)で、一方は酸素が3つ(O, O, O)です。
C=Oの部分は二重結合ですので、酸素が2つ分になります。ご注意ください。
酸素のほうが水素よりも原子番号が大きいので、カルボキシル基が2番、メチル基が3番になります。
このとき、直接結合している3つ分の原子を考慮することは重要です。
例えば、水酸基が結合したメチル基とホルミル基を比較する場合、前者は(O, H, H)で、後者は(O, O, H)になります。
酸素が1個だけ多いホルミル基の方が、優先順位が高くなります。
それでは話を戻します。
優先順位がもっとも低いもの、乳酸では水素原子になりますけど、これを画面の向こう側、奥側にして考えます。
このとき一度、下記のように図を描き直すことをお勧めします。
4番目の水素原子を奥側(紙面の向こう側)にして、メチル基とカルボキシル基が同一平面上になるようにすると、水酸基が手前側にきます。
次に、優先順位の1番→2番→3番の順にたどっていきます。
このとき、時計回りだった場合はR配置、反時計回りだった場合はS配置になります。
時計回りなのでR配置です。(R)-乳酸ですね。
「R」はラテン語の右を意味するこの単語(rectus)に由来します。
「S」は左を意味するこの単語(sinister)に由来します。
ちなみに私は、時計回りだったら現実……リアル(Real)の世界なので「R」。
そうでないなら「S」と覚えています。
この一連の作業をなるべく早く行なうことができるようになれば、国家試験の問題も怖くありません。
さて、右側に描かれていたもう1つの乳酸も描き直してみましょう。
その後、やはり優先順位の1番→2番→3番の順にたどっていくと、反時計回りなのでS配置です。
こちらは、(S)-乳酸ですね。
おそらく一番難しいのは、頭の中でこの分子を立体的にとらえて描き直すところですよね。
不斉炭素原子をもつ分子が正四面体の構造であることをしっかりと認識してください。
その手助けとなる方法が2つあって、その1つは分子模型を使うことです。
おそらく大学で購入している学生さんが多いと思います。
分子模型を使ってキラルな分子を組み立てて、ひたすら眺めたり触ったりしましょう。
これを繰り返していると、いやでも立体構造を認識できるようになり、頭で思い浮かべて描き直すことができるようになります。
あとは、『Avogadro』というフリーソフトをパソコンにインストールして使ってみてもいいと思います。
立体的な乳酸を組み立てて回転させることができます。
YouTubeではその様子を載せているので、是非ご覧になって下さい↓
次の記事では、薬剤師国家試験の問題を用いてRS表示の練習をします。
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薬理学を丁寧に説明しましたので、是非よろしくお願いします!
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