NMRの問題は、シンプルでわかりやすいシグナルから解析していきましょう。
今回の問題では「加水分解反応によって得られた化合物はアとウに相当するシグナルが消えた」という追加の手掛かりがあるので、このことも頭に入れながら選択肢を絞っていきます。
ちなみに、問題の表に「積分比」と書いてあるので、示されている値の2倍や3倍の水素原子をもつ可能性もあります。
例えば選択肢にある1番の化合物のを見てみると計13H分であり、表の値を足したものと一致しているので、表の値のまま考えて問題ありません。
それでは、スペクトルを見ていきましょう。
まずは、もっともシンプルな一重線のイ(3H分)から特定していきます。
3ー4ppmくらいの範囲にある3H分の一重線は基本的にメトキシ基のプロトンです。
メトキシ基を1つだけもつのは1・2・3・4番の化合物であるため、5番の化合物が選択肢から除外されます。
次にわかりやすいシグナルは、アとウの組み合わせでしょう。
1ー1.5付近の三重線3H分と、4ー4.5付近の四重線2H分は、エトキシ基(ーOCH2CH3)がもつプロトンに由来するシグナルと考えるのが妥当です。
なお、このようなシグナルは酢酸エチルのNMRスペクトルにも見られます(酢酸エチルのプロトンNMRスペクトルは必ず覚えておきましょう)。
したがって、エトキシ基をもたない1番の化合物が正解から除外され、残りは2・3・4番の化合物になりました。
さて、アとウのシグナルについは問題文にも手掛かりがありましたね。
加水分解反応によりアとウのシグナルが消失するため、4番の化合物のようなエトキシ基ではなく、2番と3番の化合物のようなエトキシ基であることがわかりますよね。
仮に4番の化合物がもつようなエトキシ基を除去するのであれば、強いルイス酸と求核剤が共存する過酷な反応条件が必要です。
したがって、4番の化合物が答えから除外できます。
というわけで、残された化合物は2番と3番です。
ここまで絞れたら化合物の構造から逆算して、対応するシグナルを考えた方がすぐに判断できることが多々あります。
2番と3番の化合物の構造に着目し、両者で異なる構造を探してみましょう。
その構造とは、2番の化合物がもつメチル基なので、この3H分のプロトンがあるかどうか確かめてみます。
問題のスペクトルには、まだ帰属していない3H分のシグナルはありません。
したがって、正解は3番です。
なお、じつは2番の化合物だけ15個の水素原子をもっています。最初に話したとおり、化合物Aの水素原子の数は合わせて13個なので、このことからも2番が正解ではないことがわかります。
以上のように、シンプルでわかりやすいシグナルから選択肢を絞っていき、選択肢が絞れてきたら化合物の構造を見比べてみると答えにたどりつきやすいと思います。
この問題の答えに到達する手順は、じつは今回紹介したものだけではありません。
どういう順番でシグナルと構造を対応させていくのかは自由です。
注意して欲しいことは、1度自分で帰属したものが絶対に正しいと思い込まないことです。
違和感を感じたら、いったん戻って帰属をやり直すようにしましょう。
過去に出題されたNMRの問題の解説はこちらからどうぞ↓
【薬剤師国家試験 第102回 問108】NMRはシンプルなピークから解析していこう - 薬学部の勉強を応援するブログ
【薬剤師国家試験 第103回 問107】NMRはシンプルなピークから解析していこう - 薬学部の勉強を応援するブログ
【薬剤師国家試験 第104回 問106】NMRの問題を解くときは構造を省略せずに書こう - 薬学部の勉強を応援するブログ
---
本ブログの管理人が薬の書籍を執筆しました↓(2024年9月発売)
薬理学を丁寧に説明しましたので、是非よろしくお願いします!
現在、楽天ブックスで管理人の書籍『ノーベル化学賞に輝いた研究のすごいところをわかりやすく説明してみた』が45%OFFで購入できます↓(2024年12月25日11:59まで)
こちらの書籍もよろしくお願いします! *売り切れ注意*
実験動物においてがん細胞の観察を可能にした「緑色蛍光タンパク質(GFP)」の発見経緯と光るメカニズム、国試の範囲でもある「質量分析」の基本と「MALDI」の解説、有機化学の発展内容(鈴木・宮浦カップリングと不斉合成)など、薬学部に関係のあることが盛りだくさんです。
興味のある方は是非どうぞ↓
問題の出典: 厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000198922.html)