【大学/薬学部】有機化学ミニ講義 不斉炭素原子① 〜R配置かS配置か〜
本記事から、不斉炭素原子をもつ分子がR配置なのかS配置なのかを決定する方法について解説していきます。
以下の3つの記事に分けて投稿します。
① 不斉炭素原子について
②R配置なのかS配置なのか……その決め方の定義について
③ 第105薬剤師国家試験の問7を解きながらRS表示について解説
今回の記事では、不斉炭素原子とは何か……というところから話していきます。
例として、下に乳酸の構造を示しました。
「不斉炭素原子」とは、簡単に言ってしまえば、直接結合している原子や原子団(原子の集団)が4つとも全て異なる炭素原子のことを言います。
乳酸は、水素原子とメチル基、カルボキシル基、水酸基と……異なる4つの置換基をもっています。
そのため、真ん中にある炭素原子は不斉炭素原子というわけです。
ちなみに、炭素原子からは4つの手が出ていますよね。
これは炭素原子が4つの価電子をもつためです。
上記のメタンで代表されるように、基本的には最大で4つの水素原子や、もしくは乳酸のように様々な置換基(-CH3、-OHなど)と結合することができますよね。
もしこの価電子のことが分からなくなってしまったら、ぜひ以前の記事『有機化学ミニ講義 ルイス構造式』をご覧になってください。
chemist-programming.hatenablog.jp
それでは本題に戻りましょう。
下記は、不斉炭素原子をもつ分子を模式的に表したものです。
4つの円形の部分は、炭素原子がもつ原子や原子団を簡単に現したものです。
4色に塗り分けているのは、全て種類が異なっていることを示しています。
真ん中にある炭素Cが不斉炭素原子です。
平面で描くと、この分子は1種類しかないように見えます。
しかしながら、これを立体的に表現すると話は変わってきます。
炭素原子が単結合を4つ形成しているときは、基本的にAのような正四面体の構造を取ります。
下記の右側に示したBは、Aを鏡に映した関係にある分子です。
AとBは重なり合いません。
右手と左手のような、似ているけど重なり合わない関係にあります。
したがって、この2つは、くっついている4つの置換基の組み合わせは同じですが、異なる分子になります。
平面で考えていたときは分かりませんでしたが、立体的に考えてみると2種類の分子が存在することがよく分かりますよね。
続いて、本当にこの2つが重なり合わないのかを確認してみましょう。
上記の状態で比較してみても分かりづらいですよね。
そこで、鏡に映したBを、例えば赤色の円とピンク色の円がAと揃うように向きを変えてみます。
その後で、あらためてAと比較してみましょう。
青色の円と、緑色の円が逆になっていて重なり合いませんよね。
したがって、AとBは別の分子になるわけです。
次に示したのは、同じものが2つくっついているケースです。
青い円形の部分が同じ置換基であることを意味してます。
この場合、真ん中の炭素原子は不斉炭素原子ではありません。
同じものが2つくっついている場合、Dと、鏡に映した関係にあるEは重なり合います。
Eの向きを変えて、Dと比較してみると、全く同じものになるのが分かりますよね。
同じものが3つくっついている場合も、やはり同じ分子になります。
これまでと同様に鏡に映したGの向きを変えて、Fと比較してみると、同じものであることが分かります。
以上のように、炭素原子に異なる4つのものがくっついている場合のみ、その分子は特別なものになることを説明しました。
平面で描いた状態だと1種類だけなのか2種類あるのかよく分かりませんでした。
しかし、立体的に考えると2種類存在することが分かりましたね。
さて、ここで一度、正四面体を表している立体的な描き方について確認しておきましょう。
直線と、黒く塗り潰されたくさび型の線、くさび型の破線が何を意味するのか、おさらいしておきますね。
下に線をジグザグ状に描いた構造を示しました。
この描き方の場合、炭素原子と水素原子が省略されて描かれています。
端っこにはメチル基(CH3)、端っこ以外にはメチレン基(CH2)が省略されています。
このとき、この炭素鎖は同一平面上にあると考えます。
この炭素鎖は、この画面の上に乗っているわけです。
下記のように黒く塗り潰されたくさび型の線を描くと、この置換基は画面の手前側を向いていることになります。
水酸基(-OH)でもアミノ基(-NH2)でも、なんでも構いません。
ちなみに、何も描かないとメチル基(-CH3)を意味します。
同じくさび型でも次のように破線で描いた場合は、画面の奥側(向こう側)を向いていることを意味します。
それでは今一度、模式的に描いた不斉炭素原子をもつ分子を見てましょう。
一方が先ほどの模式的な分子で、一方はその炭素の元素記号Cを省略したものになります。
炭素のCを省略して、上に示したジグザグ状の構造と描き方を揃えたわけです。
この2つの図を改めて下に並べました。
アミノ基(-NH2)が結合している不斉炭素原子に着目して比較してみましょう。
赤く囲った部分が同一平面上の(画面上に乗っている)線で、青色で囲った部分が手前側、緑色で囲った部分が奥側を意味していますよね。
以上のように、鏡に映したものと重なり合わない分子について説明しました。
このような分子を「キラル」な分子と呼びます。
さらに、鏡に映した関係にある各々の分子のことを「エナンチオマー」もしくは「鏡像異性体」と呼びます。
例えば、『これらの分子はエナンチオマーの関係にある』……と言ったり、『この分子は、この分子のエナンチオマーである』と言ったりします。
そして、各々のエナンチオマーが1:1の割合で混ざっているものは「ラセミ体」と呼びます。
これで今回の話は終わりです。
次の記事では、不斉炭素原子がR配置をもつのかS配置をもつのか……その決め方の定義について解説していきます
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