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【薬剤師国家試験 第102回 問8】反応機構を書いてラジカルが発生しているかどうか確認しよう

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 ラジカル中間体を経る反応はどれか……ということなので、反応の途中でラジカルが発生していなくてはいけません。

 じつは、選択肢の試薬や反応条件を見るだけでも答えにたどり着けますが、どんな引っ掛けが潜んでいるか分からないので、こういう問題は反応機構を(頭の中だけでも)書けた方がベターですね。

 

【1】……典型的なSN1反応ですね。

 水酸基プロトン化された後に水分子が脱離し、カルボカチオンが生じます。

 第3級のカルボカチオンは安定性が高いので、容易に生じます。

 最後に、臭化物イオンと反応し、ハロゲン化アルキルが生成します。

 ラジカル反応ではありません。

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【2】……E2反応ですね。

 水酸化物イオンプロトンを引き抜き、同時に塩化物イオンが脱離します。

 生成物はオレフィンです。

 これもラジカル反応ではありません。

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【3】……ラジカル反応ですね。

 光照射と書かれている時点で、正解の可能性が高いです。

 ラジカル反応は、熱や光、過酸化物などの存在下で開始されるんでしたよね。

 反応機構の詳細を下に示しておきます。*1

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 もう一つ、大切なポイントは、ラジカルの安定性についてです。

 ベンジル位にラジカルが発生している場合、下の共鳴構造式が示す通り電子が非局在化しているため、安定です。

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 アリルラジカルも同様ですよね。

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 また、カルボカチオンの安定性と一緒で、ラジカルの安定性も第3級 > 第2級 > 第1級であることを思い出しておきましょう。

 

【4】……SN2反応ですね。

 水酸化物イオンが求核攻撃し、ヨウ化物イオンが脱離します。

 立体障害が小さい第1級のハロゲン化アルキルが反応物であるため、SN2反応を起こしやすいことがポイントです。

 もちろん、ラジカル反応ではありません。

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【5】……この反応は、Diels–Alder反応と呼ばれています。

 これはラジカル反応ではありません。

 「協奏反応」というのですが、一段階で進行します。

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 プラスやマイナスで考える極性反応でも、ラジカルが発生するラジカル反応でもない、第3の反応機構と言われています。*2

 

 以上のことから、3番の選択肢が正解でした。

 

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問題の出典: 厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000168886.html

*1:M. Jones, Jr. 著、奈良坂紘一ら 監訳『ジョーンズ有機化学(上)』東京化学同人(2000)p.431–

*2:田口武夫、東山公男、小林 進『新有機医薬品合成化学』廣川書店(2013)