【薬剤師国家試験 第104回 問207】化学の考え方とシスプラチンの知識で解こう
今回から実践問題(有機化学限定)に入ります。
かつての薬剤師国家試験(〜96回まで)には、この手の問題は少なかったですね……。
私は医療現場で働いた経験がありませんが、化学の力で実践問題を解いてみますね!
【1】……錯体は配位子交換しますよね。
シスプラチンが思い出されます。
問題になっているオキサリプラチンも配位子交換しそうですが、二座で配位子しているので(キレートしているので)、シスプラチンより安定していそうです。
どちらとも言えないので、【1】は保留にしておきましょう。
【2】……この設問は、Pt–O結合が切れやすいのか、Pt–N結合が切れやすいのかを聞いていますね。
金属原子は基本的に電気陰性度が低く、酸素原子や窒素原子は高いですよね。
結合エネルギーは、電気陰性度の差がより大きい、Pt–Oの方が高くて外れにくそうです(結合エネルギー: Pt–O > Pt–N)。
ただし、じつは前の問題で、点滴静注液と書いてありました。
静脈に入れるということなので、水溶液中の話をしています(血液の成分はほとんどが水)。
水分子のような極性が高い溶媒の下では、電気陰性度の差から考えた結合の強さとは逆転しますよね(極性溶媒中での結合の切れにくさ: Pt–N > Pt–O)。*1
したがって、×です。
【3】……配位子交換も化学反応です。
反応条件次第で起こりやすさは変わるでしょうから、○です。
【4】……この設問の記述は、シスプラチンが活性を示すためのメカニズムですよね。
オキサリプラチンとシスプラチンの構造は類似しており、活性のメカニズムに大きな違いがあるとは思えないので、○でしょう。
【5】……有機化学の問題が決ましたね。
これはチャンスですので、慌てずに配位子Bの構造、および、鏡に映した構造を書いてみましょう。
この2つの構造は、重なり合いませんよね。
これらはエナンチオマーに相当します。
続いて、配位子Bがシンの配置になっている構造を書いてみましょう。
アンチの配置があれば、シンの配置の化合物もあります。
こちらに関しても、鏡に映した構造を書いておきます。
シン配置の場合、上記の2つの構造は重なり合いますよね。
両者は同じ立体異性体です。
不斉炭素原子を(2つ以上)もつにもかかわらず、対称構造をもっているため、エナンチオマーが存在しないんでしたね。
メソ体と呼ばれています。
酒石酸がメソ体の化合物として有名です。
この設問は、○です。
最後まで解いてみると、【1】か【2】かな……というところです。
化学的には【2】の記述が間違いだと言えるので、正解は【2】でしょう(当たっていました)。
ということは、【1】の記述は合っており、配合変化を受けるということですね(これは知らないと難しい……)。
とても難しい問題でしたが、化学の考え方(【2】、【3】、【5】)と、シスプラチンに関する知識(【4】)を勉強していれば、正解にたどり着けそうです。
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問題の出典: 厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000198921.html)