ばけがくしゃの勉強ブログ

薬剤師国家試験、有機化学、プログラミング、etc.

【薬剤師国家試験 第104回 問207】化学の考え方とシスプラチンの知識で解こう

 今回から実践問題(有機化学限定)に入ります。

 かつての薬剤師国家試験(〜96回まで)には、この手の問題は少なかったですね……。

 私は医療現場で働いた経験がありませんが、化学の力で実践問題を解いてみますね!

f:id:chemist-programming:20200204164227p:plain【1】……錯体は配位子交換しますよね。

 シスプラチンが思い出されます。

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 問題になっているオキサリプラチンも配位子交換しそうですが、二座で配位子しているので(キレートしているので)、シスプラチンより安定していそうです。

 どちらとも言えないので、【1】は保留にしておきましょう。

【2】……この設問は、Pt–O結合が切れやすいのか、Pt–N結合が切れやすいのかを聞いていますね。

 金属原子は基本的に電気陰性度が低く、酸素原子や窒素原子は高いですよね。

 結合エネルギーは、電気陰性度の差がより大きい、Pt–Oの方が高くて外れにくそうです(結合エネルギー: Pt–O > Pt–N)。

 ただし、じつは前の問題で、点滴静注液と書いてありました。

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 静脈に入れるということなので、水溶液中の話をしています(血液の成分はほとんどが水)。

 水分子のような極性が高い溶媒の下では、電気陰性度の差から考えた結合の強さとは逆転しますよね(極性溶媒中での結合の切れにくさ: Pt–N > Pt–O)。*1

 したがって、×です。

 

【3】……配位子交換も化学反応です。

 反応条件次第で起こりやすさは変わるでしょうから、○です。

 

【4】……この設問の記述は、シスプラチンが活性を示すためのメカニズムですよね。

 オキサリプラチンとシスプラチンの構造は類似しており、活性のメカニズムに大きな違いがあるとは思えないので、○でしょう。

 

【5】……有機化学の問題が決ましたね。

 これはチャンスですので、慌てずに配位子Bの構造、および、鏡に映した構造を書いてみましょう。

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 この2つの構造は、重なり合いませんよね。

 これらはエナンチオマーに相当します。

 続いて、配位子Bがシンの配置になっている構造を書いてみましょう。

 アンチの配置があれば、シンの配置の化合物もあります。

 こちらに関しても、鏡に映した構造を書いておきます。

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 シン配置の場合、上記の2つの構造は重なり合いますよね。

 両者は同じ立体異性体です。 

 不斉炭素原子を(2つ以上)もつにもかかわらず、対称構造をもっているため、エナンチオマーが存在しないんでしたね。

 メソ体と呼ばれています。

 酒石酸がメソ体の化合物として有名です。

 この設問は、○です。

 

 最後まで解いてみると、【1】か【2】かな……というところです。

 化学的には【2】の記述が間違いだと言えるので、正解は【2】でしょう(当たっていました)。

 ということは、【1】の記述は合っており、配合変化を受けるということですね(これは知らないと難しい……)。

 とても難しい問題でしたが、化学の考え方(【2】、【3】、【5】)と、シスプラチンに関する知識(【4】)を勉強していれば、正解にたどり着けそうです。


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問題の出典: 厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000198921.html

*1:結合エネルギーはO–H >  H–Hですが、O–Hは水溶液中で解離しやすいですよね(ヘテロリシス)。