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【薬剤師国家試験 第102回 問211】β-ラクタム系抗菌薬とプロドラッグについて理解しよう

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 今回は、β-ラクタム系の抗生物質に関する問題ですね。

それでは早速、選択肢を見ていきましょう。

 

【1】……この骨格はペネムではなくてセフェムですので、×です。

 下に示した4つの骨格は、とくに有名なので覚えておきましょう。

 いずれも、β-ラクタム系抗生物質の骨格です。

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【2】……4員環は歪んでいるため、開環しやすいです。

 つまり、β-ラクタム環のカルボニル炭素は求核攻撃を受けやすいということです。

 求核攻撃を受けると、アミド結合が切断され、4員環が開環するわけですね。

 求核攻撃を受けやすいということは、β-ラクタム環のカルボニル炭素の求電子性は高くなっていることになります。

 

 したがって、【2】は×です。

 

【3】……この記述は、まさにβ-ラクタム系抗菌薬のメカニズムですので、この選択肢は正しいです。

 選択肢の【2】で述べたように、β-ラクタム環のカルボニル基は反応性が高いです。

 このカルボニル基が、酵素のセリン残基、つまり水酸基と反応し、酵素が阻害されます。

 その様子を下に示しました。

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 セリンの酸素原子とカルボニル炭素が共有結合を形成し、β-ラクタム環は開環していますね。

 

【4】……確かに、カルボキシル基がエステル化されている構造があるため、プロドラッグである可能性があります。

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 カルボン酸のように水溶性が高いと、小腸の粘膜から吸収されにくくなります。

 細胞膜は脂質二重層になっているんでしたね。

 水溶性が高いと細胞膜を通り抜けづらいのですが、脂溶性の高い低分子は通過しやすいです。

 カルボキシル基をエステル化してしまえば、カルボン酸としての性質は失われ、脂溶性が高まるわけです。

 その結果、小腸の粘膜から吸収されやすくなるので、経口吸収性が改善されます。

したがって、【4】の記述は正しいです

 

【5】……結論から言うと、セフジトレン ピボキシルは酢酸を生じるような構造はもっていないため、この記述は間違いです。

 「ピバル酸」がどのような構造をもつのかは、「2,2-dimethylpropanoic acid」という名称から分かりますね。

 Propanoic acid、つまりプロピオン酸は、炭素数3つのカルボン酸です。

 その2位にメチル基が2つ置換しているので、下に示した構造になります。

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 ピバル酸の部分は、セフジトレン ピボキシルの中の下記に示した構造に相当することが分かると思います。

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 【5】の設問に書いてあるように、セフジトレン ピボキシルが加水分解されると、どのような化合物が生じるでしょうか?

 エステルの構造を加水分解させてみましょう。

 エステル構造は2つあります(セフジトレン ピボキシルの右上に二か所)。

 生体内でどちらが優先的に加水分解されるのかは分かりませんが、生じる化合物は同じものです。

 それでは、2通りのエステルの加水分解について見ていきましょう。

 まずは、1番右側のエステルが加水分解されるパターンです。

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 反応機構を書いている途中で、ヘミアセタールの部分構造が生じたら、そのまま分解させてください。

 特別なケースでない限り、このような構造は不安定です。

 この反応機構が示すとおり、ピバル酸とともにホルムアルデヒドが生じます。

 やはり酢酸は生成しませんので、【5】の記述は×です。

 それでは、もう一つのパターンも見ていきましょう。

 下記のように、セフェム骨格に直接結合しているエステルが加水分解されるパターンです。 

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 加水分解のメカニズムがこちらのパターンであったとしても、最終的にホルムアルデヒドとピバル酸が生成していますね。

 生体内で、どちらの経路により加水分解されているのかは分かりませんが、生じる化合物は同じでした。

 

 以上のことから、正解は【3】と【4】です。


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問題の出典: 厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000168886.html