【薬剤師国家試験 第102回 問107】アダマンタン骨格の特徴を理解しよう
【1】……「ピペリジン」の構造は、シクロヘキサン(6員環)の炭素原子の一つが窒素原子になっているものでした。
ビルダグリプチンの右側の構造は5員環ですので、「ピペリジン」ではなく、「ピロリジン」です。
この2つの構造はよく出てきますので、必ず覚えておきましょう。
というわけで、【1】の選択肢は×です。
【2】……波線内の構造は、アダマンタンと呼ばれている有名な構造です。
下記の化合物が「アダマンタン」です。
下の4つの図は、アダマンタンに含まれている、各々のシクロヘキサン環に色を付けたものです。
ご覧のとおり、4つのシクロヘキサン環が隠れています。
これらのシクロヘキサン環は、すべて「いす形配座」です。
左の2つは分かりやすいと思いますが、右の2つは分かりづらいので、分子模型を組み立てて確認することをお勧めします。
すべて「いす形配座」ですので、対称構造をもちます(これも分子模型を組み立ててみるとよく分かります)。
この問題では、このことがポイントになります。
すべて「いす型配座」ですので、【2】の選択肢は○です。
なお、フリーソフトを使い、3次元でアダマンタンを示した動画をyoutubeにアップしていますので、興味のある方は是非ご覧になって下さい↓
【3】……aとbの窒素原子の塩基性を比べる問題です。
アミド構造の窒素原子(b)の非共有電子対は、下記の共鳴構造式が示すとおり、隣接するカルボニル基に引っ張られて非局在化しているため、プロトン化され難いです。
そのため、aの窒素原子の方が塩基性が強いです。
よって、【3】の選択肢は×です。
【4】……cの炭素原子の絶対立体配置について聞かれています。
一番優先順位の低い水素原子が手前側を向いているので、構造を裏返して考えましょう。
一番優先順位の高いのは、窒素が直接結合している部分です。
残りの2つは、ともに炭素原子が直接結合していますが、シアノ基は炭素原子に窒素原子が直接結合しているので、2番目に優先順位が高くなります。
1→2→3と辿っていくと、反時計回りになりますので、この不斉炭素原子の絶対立体配置は「S」です。
したがって、この選択肢の記述は間違いです。
【5】……非常に難しい設問ですね。
問題になっている炭素原子dとeの周辺を、【2】で示したアダマンタンの書き方に習って書き直しました。
eの炭素原子に水酸基が1つ置換しており、dの炭素原子には残りの構造が続いていますが。
アダマンタンの対称性が崩れているようにも見えますが、下記のピンク色で囲った部分は同じものです。
図の真ん中に対称面があるので(←人体に置き換えるなら正中面のところです)、その面の左側の構造と右側の構造は同じものになります。
それら左右の構造は面対称の関係にあるわけです。
そのため、対称面上にあるdとeの炭素原子は、キラル中心ではありません。
【5】の選択肢は、×です。
ぜひ、分子模型を組み立てて確認してみてください。
以上のことから、正しい記述は【2】と【5】でした。
アダマンタンの化学は難しいですよね。
しつこいようですが、模型を組んでみないとイメージができないかもしれません。
ただし、この問題はアダマンタン骨格とは関係ない【1】、【3】、【4】の選択肢が明らかに×なので、正解することはさほど困難ではないでしょう。
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興味のある方は是非どうぞ↓
問題の出典: 厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000168886.html)