【薬剤師国家試験 第104回 問213】なぜプロドラックにしているのかを考えよう
問213は、バラシクロビルに関する問題です。
この問題で第104回薬剤師国家試験の解説を終わりにします。
【1】……バラシクロビルがプロドラッグであるならば、生体内で構造のどこかが変わるはずです。
プラスグレルの代謝の第一段階もそうでした(第114回、問209)。
下に示したようにエステル構造が加水分解されて、活性をもつ化合物になるのでしょう。
プロドラッグであることはもっともらしいのですが、この設問の「脂溶性を増大させることを意図して」という記述が正しいとは思えません。
なぜなら、エステルのカルボン酸側にアミノ基が置換しているからです。
第1級アミンは、カルボン酸ぐらい水溶性が高くなるはずです。
「脂溶性を増大させることを意図して」という記述は誤りなので、×です。
【2】……L-バリンかD-バリンかは、Fischer投影式で判断できますね。
カルボキシル基を上側にして、アミノ基が手前側に向くようにします。
このとき、アミノ基が左側にあるとL-アミノ酸、右側にあるとD-アミノ酸です。
図が示すとおりL-バリンなので、【2】の記述は正しいです。
【3】……生体内だろうとフラスコの中だろうと、C–C結合を切断するのは難しいですよね。
この記述は、×です。
ちなみに、C–C結合を切断するのが難しいと言っても、第104回の問102【5】で登場した逆アルドール反応や、過ヨウ素酸ナトリウムを用いた酸化など、例がないわけではありません。
【4】……リン酸化されるということは、アルコールからリン酸(モノ)エステルができるということです。
下記のようにエーテル酸素がリン酸エステルの構造に変換されることはありません。
酸素原子が正電荷を帯びてしまいますよね。
そのため、【4】の記述は×です。
リン酸化されるとしたら、エーテル酸素ではなく水酸基のほうでしょう。*1
【5】……プロドラック化された理由が、脂溶性を上げるためではなく、ペプチドトランスポーターを通過させるためというのであれば頷けます。
プロドラック化するために導入した構造はバリン(=アミノ酸)ですからね。
以上のことから、正解は【2】と【5】でした。
アミノ基が置換しているにもかかわらず、「脂溶性を増大させることを意図して」……という【1】の記述が誤りであると気づくことができれば、正解にたどりつけそうです。
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問題の出典: 厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000198921.html)
*1:実際はリン酸が3つ結合するそうです(アシクロビル三リン酸)。