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【薬剤師国家試験 第104回 問102】生化学反応の反応形式を見極めよう

 問102は生体内での反応の、反応形式を判別する問題です。

 求核置換反応(SN反応)に分類される反応を選ぶわけですね。

 SN反応という用語は、SN1反応とSN2反応のことを意味しているのだと思います。*1

 それでは、SN1反応とSN2反応を選んでいきましょう!

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f:id:chemist-programming:20200131104327p:plain【1】……反応物の構造がどのように変化しているのか、よく見てみましょう。

 ピロリン酸(のイオン)の部分が水酸基に置き換わっていますよね。  

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 ピロリン酸(のイオン)の脱離と水の求核攻撃が起こったわけですね。

 求核攻撃と置換基の脱離が起っているので、この反応は求核置換反応です。

 アリル位の炭素原子上で反応が起こっているので、SN1反応だろうとSN2反応だろうと有利ですしね。

 なお、私にはこの反応がSN1反応なのかSN2反応なのかを断定することが困難です。

 水は求核剤としてはあまり優れていないことから、下に示したようにSN1反応が妥当だとは思いますが……。

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【2】……なかなか複雑な構造ですが、変化している箇所を見極めましょう。

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 図で示したメチル基が、もう一方の化合物の窒素原子に移っていますね。

 メチル基の炭素原子に向かって窒素原子が求核攻撃したことになります。

 そして、硫黄を含む化合物が脱離したというわけですね。

 求核攻撃と脱離が起こっているので、求核置換反応ですね。

 この反応は下に示したように、SN2反応でしょう。 

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 SN1反応だとしたら、メチルカチオン(とても不安定)が発生していることになりますからね。 

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【3】……これまでの設問と同様に、 変化しているところを探しましょう。

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 脱プロトン化したカルボキシル基(カルボキシラートイオン)の部分が、二酸化炭素になって外れていますね。

 二酸化炭素が生じる反応といえばα位にカルボニル基をもつカルボン酸の「脱炭酸」ですよね。

 反応機構を書いておきます。

 脱炭酸を起こす際には分子型のカルボン酸になっていることが必要です。

 まずは、プロトン化させて分子型にしましょう。

 続いて、下の段に移ります。

 六角形を描くようにカルボン酸の向きを変えることがポイントです。

 脱炭酸は一段階の反応ですので、巻き矢印を一気に書きましょう。

 ちなみに、この問題は生体内の反応を表しているようですが、フラスコ内での合成実験では、通常、この段階で加熱が必要です。

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 脱炭酸は、SN1反応でもSN2反応でもありません。

 

【4】……またしても複雑な構造です。

 ただし、変化している箇所を探してみると、ほんの一部分ですよね。

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 水酸基(–OH)がなくなって、アルケンに変換されています。

 赤い矢印で示したHも一緒になくなっていますね。

 どのようなメカニズムを経て生体内で反応が進行しているかは不明ですが、H2Oがなくなっているので「脱水反応」です。

 求核置換反応ではありません。

 

【5】……1つの化合物が2つの化合物に分解していますね。

 このような場合は、まず、どの結合が切断されているかを見極めましょう。

 下図の赤い波線で示したところの結合が切断されていますね。

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 問題文に示されている分解物が生じるように巻き矢印を書いてみると、次のようになります。   

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 何が起こっているのかよく分からないかもしれませんが、2つの分解物をよく見てみると、切断された箇所はカルボニル基のα位の炭素原子とホルミル基の炭素原子であることに気づくと思います。

 この組み合わせは、「アルドール反応」の反応物ですね。

 2つの分解物を元の形に戻してみると、アルドール反応であることは明らかです。

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 元々の分解は、アルドール反応の逆反応(=逆アルドール反応)だったというわけです。

アルドール反応だろうと逆アルドール反応だろうと、求核置換反応ではありませんね。

 

 以上のことから、正解は【1】と【2】でした。

 難しい問題でしたね。

 ただ、反応の詳細が分からなくとも、反応物と生成物のどこが、どういう形式の反応で変化しているのかさえ分かれば正解にたどり着くことができます。

 変化している構造を探すところから始めましょう。


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問題の出典: 厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000198921.html

*1:SNi反応という反応形式も含むのかもしれません。SNi反応が薬剤師国家試験に出題されたことはないと思いますが……。